デラックスな涙

マツコが大粒の涙を流した。厳密に言うと女装タレントのマツコ・デラックスが「月曜から夜更かし」という深夜番組内で、突然、涙したのだ。

 
「歳とると涙脆くなるのよ〜。何だか知らないけど、突然泣けてくるの!最近なんて朝ウンコしてるときに泣いちゃったわ!」
 
帰宅後、何気なくつけていたテレビに一瞬で釘付けになった。最近はテレビで彼女を見ない日はない。
 
奇しくも私はマツコと誕生日が一緒だ。親近感という言葉が相応しいかは分からないが、そんな昨夜の彼女の心情をふとした瞬間に考える。思い出したのは岡本太郎の著書の中の坂本九とのやりとりだった。
 
ある番組で2人は同席し、岡本太朗が「君のような人気稼業はつらいだろうな」と声をかけると、坂本九は堰を切ったように泣きだしてしまったそうだ。世間が作る自分への虚像とその重圧に、本来の自分が子供のように悲しんでいるというのだ。マツコ・デラックスの涙もこの心情に近いのではないだろうか。彼らは敏感なのだ。そんな姿も地上波に乗せられてしまう、彼いや彼女の立場はおそらく途方もなく孤独だ。マツコ・デラックスは現在の坂本九と言っても過言ではない。
 
彼女だけではない。私たちにも同じことが言えるのではないか。周りの期待に応えようとするあまり、知らず知らずのうちに本来の自分のから逸脱している瞬間だ。その時間が長ければ長いほど人生は味気なく虚しい。出来ることならなるべく本音で生きていきたいものだが、これから歳を重ねるつれ、そうも出来ない局面に多く出くわすだろう。
 
もし私がマツコ・デラックスのマネージャーであったら、彼女を元気づけるためにどんな言葉をかけるだろう。「そんなに周りの期待に応えなくていいんですよ」「たまにはゆっくり海外旅行でも行ってください」そんなことを酒の肴に考えている私は、途方もなく暇人だ。今日もテレビの中のマツコ・デラックスに夏炉冬扇のエールを送る。